♥ 中3、夏
【2007/03/17 (Sat)】
7月6日 雨のち曇り
「あーあ…今日はトッキーの家に遊びに行こうとしてたのに…」
重たそうな雨雲が空いっぱい敷き詰まっていて
大粒の雨が樹に、屋根に、地面に…ぶつかる音を窓越しに感じた。
「なぁーにが『遊びに行く』よ。忍び込むんでしょ」
雨にうたれて帰ってきた一番上の姉、美祢(みね)が髪を拭きながら部屋に入ってきた。
腰まである金髪の髪は、綺麗だけど母はあまり好ましいとおもっていない。
「っていうか、何。今日…柏木の人間がそろうんでしょ?」
詠美と肩を並べて窓の外に視線を向ける美祢が呟いた。
広い庭には何台もの車が止まっている。
柏木家は古来より日本武術のひとつ、剣術を伝承していた。
現在は剣術の竹刀稽古である武道…剣道を受け継いでいるようだが…。
数日前、「大事な話がある」と本家から連絡が来た。
そして今…
この古臭く無駄にでかい本家に招かれたのだ。
「そうらしいわね…曾爺ちゃん、話長いから好きじゃないのよねぇ…」
真ん中を空けて左右に並ぶ座布団とは別に、掛け軸の前に置かれた真ん中の座布団…
この本家に住む主、詠美の曽祖父が座る位置。
温厚な詠美でも、こういった堅苦しいことは苦手のようだ。
「こら、あんた達!そろそろ人くるから座ってなさい!」
普段ジャージの母親が、今日は着物を着ていた。
これは本格的に面倒だ…本能で、詠美はそれを感じ取った。
「あー…今日は集まってもらって悪いね」
均等に、向かい合わせに座る大衆に掠れた声が向けられる。
曽祖父の一言に、一同はそちらへ視線を注いだ。
「今日集まってもらったのは他でもない…」
言うと、母親が一本の古びた刀を曽祖父の前に置いた。
「詠美」
名前を呼ばれ、曽祖父に注がれていた視線は詠美に移る。
ギクッ、と肩を震わせながら「はい」と返事をし…とりあえず、曽祖父の前まで歩み寄る。
「そこに座りなさい」
にこやかにいう曽祖父の言葉に、頷いて座った。
背中にぶつけられる視線が…痛い。
曽祖父は、柄と鞘を掴んで刀を手に取る。
しかし、刀はびくともしない。
「見ての通り…この刀は私の手でも鞘から抜けぬ」
「はぁ…抜けませんね」
自分を見ながら言われるので、詠美は思わず言葉を返す。
すると曽祖父はその刀を詠美に差し出した。
「詠美、抜いてみなさい」
「は?」
「いいから…」
「…はぁ…」
馬鹿力の曽祖父に抜けないものを、詠美が抜けるはずは無い。
しかし差し出されて、しかも後ろの視線を前にしたら…やるしかない。
渋々刀を受け取ると、深呼吸をして柄を強く握る。
鞘から刀を抜くように手を引くと…―――
「あれ…」
あっさり抜けた。
周りがざわめく。
曽祖父が目を見開いたまま硬直していた。
「ほぉ…ついに来たか…」
満面の笑みを浮かべ、詠美の頭を皺くちゃな手が撫でた。
はてな顔の詠美に曽祖父は言う。
「お前は…この一族の能力者に選ばれたんだよ」
詠美以外の柏木家の人間は大喜び。
母も姉も「世界のためにがんばるのよ」という。
あの頃はまだ、よく意味がわからなかった…―――
「やー、あれは本当吃驚したわ」
放課後の教室、椅子に跨り後ろの机に座る相手に語る。
相手…鴇威はゆるい笑みを浮かべてクスクス笑った。
「通りで夏休みになっても遊びに来いひんかったんやね」
「曾爺ちゃんに最低限の技を叩き込まれてたのよ」
苦笑いをしながら肩をくすめる。
空いっぱいに敷き詰められた雨雲は
1年前の出来事を思い出させた…
(無理やり)END。
大粒の雨が樹に、屋根に、地面に…ぶつかる音を窓越しに感じた。
「なぁーにが『遊びに行く』よ。忍び込むんでしょ」
雨にうたれて帰ってきた一番上の姉、美祢(みね)が髪を拭きながら部屋に入ってきた。
腰まである金髪の髪は、綺麗だけど母はあまり好ましいとおもっていない。
「っていうか、何。今日…柏木の人間がそろうんでしょ?」
詠美と肩を並べて窓の外に視線を向ける美祢が呟いた。
広い庭には何台もの車が止まっている。
柏木家は古来より日本武術のひとつ、剣術を伝承していた。
現在は剣術の竹刀稽古である武道…剣道を受け継いでいるようだが…。
数日前、「大事な話がある」と本家から連絡が来た。
そして今…
この古臭く無駄にでかい本家に招かれたのだ。
「そうらしいわね…曾爺ちゃん、話長いから好きじゃないのよねぇ…」
真ん中を空けて左右に並ぶ座布団とは別に、掛け軸の前に置かれた真ん中の座布団…
この本家に住む主、詠美の曽祖父が座る位置。
温厚な詠美でも、こういった堅苦しいことは苦手のようだ。
「こら、あんた達!そろそろ人くるから座ってなさい!」
普段ジャージの母親が、今日は着物を着ていた。
これは本格的に面倒だ…本能で、詠美はそれを感じ取った。
「あー…今日は集まってもらって悪いね」
均等に、向かい合わせに座る大衆に掠れた声が向けられる。
曽祖父の一言に、一同はそちらへ視線を注いだ。
「今日集まってもらったのは他でもない…」
言うと、母親が一本の古びた刀を曽祖父の前に置いた。
「詠美」
名前を呼ばれ、曽祖父に注がれていた視線は詠美に移る。
ギクッ、と肩を震わせながら「はい」と返事をし…とりあえず、曽祖父の前まで歩み寄る。
「そこに座りなさい」
にこやかにいう曽祖父の言葉に、頷いて座った。
背中にぶつけられる視線が…痛い。
曽祖父は、柄と鞘を掴んで刀を手に取る。
しかし、刀はびくともしない。
「見ての通り…この刀は私の手でも鞘から抜けぬ」
「はぁ…抜けませんね」
自分を見ながら言われるので、詠美は思わず言葉を返す。
すると曽祖父はその刀を詠美に差し出した。
「詠美、抜いてみなさい」
「は?」
「いいから…」
「…はぁ…」
馬鹿力の曽祖父に抜けないものを、詠美が抜けるはずは無い。
しかし差し出されて、しかも後ろの視線を前にしたら…やるしかない。
渋々刀を受け取ると、深呼吸をして柄を強く握る。
鞘から刀を抜くように手を引くと…―――
「あれ…」
あっさり抜けた。
周りがざわめく。
曽祖父が目を見開いたまま硬直していた。
「ほぉ…ついに来たか…」
満面の笑みを浮かべ、詠美の頭を皺くちゃな手が撫でた。
はてな顔の詠美に曽祖父は言う。
「お前は…この一族の能力者に選ばれたんだよ」
詠美以外の柏木家の人間は大喜び。
母も姉も「世界のためにがんばるのよ」という。
あの頃はまだ、よく意味がわからなかった…―――
「やー、あれは本当吃驚したわ」
放課後の教室、椅子に跨り後ろの机に座る相手に語る。
相手…鴇威はゆるい笑みを浮かべてクスクス笑った。
「通りで夏休みになっても遊びに来いひんかったんやね」
「曾爺ちゃんに最低限の技を叩き込まれてたのよ」
苦笑いをしながら肩をくすめる。
空いっぱいに敷き詰められた雨雲は
1年前の出来事を思い出させた…
(無理やり)END。
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